浮腫の概論
浮腫についての理解を深めることは、リンパマッサージ資格にとって非常に重要です。リンパマッサージの際、比較的よく目にする機会の多い症状であり、むくみ自体は、健常な方にでも起こりうるからです。しかしながら、浮腫は、より重篤な疾患の可能性が隠されている症状でもありますので、安易にむくみとして処理する前に、医療機関を受診し適切な診療を受けていただくようお勧めることが大切です。
このPageでは、1.浮腫のメカニズム、2.全身性浮腫と局所性浮腫、3.浮腫の評価について解説致します。
浮腫(むくみ)は、血液中の体液が血管外に漏れ出し、組織に水分が過剰に貯留した状態を指します。浮腫は、心臓や肝臓や腎臓などの疾患によって起こる全身性浮腫と局所性浮腫に分類されます。局所性の浮腫は、一般的にはリンパ管系の流れが何らかの原因によって障害されて起こる場合が多いようです。
浮腫(むくみ)は、臨床的には明らかな組織間液の増加を指し、健常な状態より少なくとも2~3L以上の体液が貯留した場合が多く、全身に明らかな浮腫が生じ呼吸苦や倦怠感などの身体的な症状を随伴している場合は、10L以上の体液が過剰に貯留していることも稀ではありません。
1.浮腫のメカニズム
1-1.心不全による体液量過剰
心臓の機能が低下すると、心臓の収縮力が低下し、全身に送り出される血液量が少なくなり循環障害を生じます。全身の血液の流れが停滞すると、血管内から血管外へ体液が移動し組織への体液の貯留が起こり浮腫を生じます。心臓から離れた重力の影響を受けやすい足の甲の浮腫などから始まり、倦怠感などの症状を自覚します。肺でも同様の状況を生じ肺うっ血の段階まで進むと、日常生活上でも呼吸苦などの症状が出現し治療が必要不可欠な重篤な状態へと移行します。
1-2.腎不全による体液量過剰
腎臓の機能が低下すると、尿として体外へ排出される体液が減少しますので、浮腫を自覚したときに、腎臓の何らかの疾患を疑うこともあると思います。腎臓には多くの機能がありますが、主要な機能として、血管中の不要な老廃物を濾過し体外に尿として排出する機能があります。何らかの原因で腎臓の機能が障害されると、浮腫や倦怠感、貧血やかゆみなどを生じます
1-3.肝硬変による体液量過剰
肝臓の機能が低下し肝硬変へ移行すると、肝臓への循環障害が生じます。この循環障害と、アルブミンと呼ばれるタンパク質の産生障害による膠室浸透圧低下により、腹水や浮腫を生じます。過度なダイエットや高齢の方に低栄養などが生じた場合も同様で、低アルブミンに伴う膠室浸透圧の低下により浮腫を生じます。
1-4.リンパ管系の障害による体液量過剰
1-5.炎症性変化による体液量過剰
炎症とは、物理的・科学的刺激、細菌やウィルスなどが人体に侵入した際に起こる人体の防御システムの結果です。炎症には、発赤・腫脹・熱感・疼痛と呼ばれる炎症の4兆候という症状を生じますが、炎症が起こった部位には免疫反応が働き、結果として血管の透過性が増し浮腫を生じます。
2.全身性浮腫と局所性浮腫
全身性浮腫は、基本的には左右対称性に生じ、初期段階では顔面や下肢に部分的に見られます。これに対し局所性浮腫は左右非対称性に出現します。
全身性浮腫
心不全、腎不全・腎炎、肝硬変、悪性腫瘍・低栄養
甲状腺機能低下症、妊娠高血圧など
局所性浮腫
血管由来の静脈血栓症や静脈瘤
リンパ関係由来の癌転移や手術による影響
炎症由来の血管炎
通常、浮腫は全般的に医療機関での診療が必要な症状ですので、医師の診断のもと、リンパマッサージが適応可能な場合の浮腫にのみリンパマッサージの適応と理解すべきです。
しかし、明らかな末梢の浮腫を確認できた場合は病院診療を勧めることが可能なのですが、明らかな浮腫を伴っていない場合も多く、何かこのあたりがだるい…少し痛む…などの場合では、安易にリンパマッサージ施術する前に、他の疾患による影響を考慮する必要があります。
3.浮腫の評価
浮腫の評価は、3-1.浮腫が発生した部位、3-2.浮腫が発生した皮膚の観察、3-3.全身的な疾患の鑑別の3つの評価から行われます。
3-1.浮腫が発生した部位
まず、浮腫が全身性浮腫か局所性浮腫化を判別する必要があります。上述の『2.全身性浮腫と局所性浮腫』かどうかを判別し、全身性浮腫であるならば、身体所見と血液検査や画像検査などで検査所見の両面から診察が必要であり、心不全、腎不全・腎炎、肝硬変、悪性腫瘍・低栄養、甲状腺機能低下症、妊娠高血圧などの疾患との鑑別診断が必要となります。
現時点での浮腫が局所性浮腫であるならば、血管由来の静脈血栓症や静脈瘤、リンパ浮腫などのリンパ関係由来のリンパ管系の閉塞や癌転移や手術による影響、蜂窩織炎などの炎症由来の血管炎などが考えられます。血管系やリンパ管系由来の浮腫ならば、患部より末梢側から段階的に患部に向かって浮腫を生じ、炎症由来ならば、炎症部位に局所的な浮腫を生じます。
3-2.浮腫が発生した皮膚の観察
浮腫を確認する際、浮腫の発生部位を実際に指で押して確認することも重要です。浮腫を30秒ほど指で押して圧痕が残らない場合は、甲状腺機能亢進症、蜂窩織炎などに代表されます。圧痕が残る圧痕性浮腫は、毛細血管内圧の上昇・透過性亢進・低アルブミン血症などの現象が起こっており、より事象として重篤な場合が多いようです。
Ⅰ期…ごく軽度の浮腫浮腫
Ⅱ期…皮膚を押すとわずかにへこむ
Ⅲ期…皮膚を押すと15~30秒で正常に戻る
Ⅳ期…患部のサイズが正常な状態の1.5~2倍
また、皮膚の色調による鑑別もあります。静脈系統の浮腫は褐色に炎症性浮腫は暗赤色を呈します。さらに、炎症性浮腫は熱感を伴い発熱や疼痛を生じます。
3-3.全身性浮腫
上述2全身性浮腫を参照ください。
やや長くなりましたが、リンパマッサージ資格に必要な浮腫への理解について、手短かに解説したつもりではあります。 浮腫の評価には、視覚的な理解よりも触れた感覚が何より重要です。リンパマッサージ資格を取得する際、施術面での手順を学ぶことも大切ですが、触れることで感じる感覚への意識も同様に重要です。